「主張」第4回 「企業内代理店は企業内ブローカーに転換してはどうか?」

 ビッグモーター事件と保険料調整行為事案により、損害保険業界が抱える構造的課題が明らかになった。企業内代理店については、その立場が不明確で、そのあり方も取り組むべき課題として挙げられている。法的には、代理店は保険会社の代理人の立場であり、求められる役割としては、契約者企業グループのために活動するということで、二律背反がある。

 この二律背反を解決する策として、企業内代理店は保険仲立人、すなわち企業内ブローカー(インハウス・ブローカー)に転換してはどうか?全ての面で理想的な解決策ではないかもしれず、詰めるべき点もあるが、敢えて大胆な提案をしてみたい。企業グループ内の保険仲介者は、海外で多く存在するものではないが、自動車、化学・薬品等ドイツの大企業ではインハウス・ブローカーが存在しており、唐突なアイデアではない。企業グループの実態やリスクを知る者がリスクコンサルティングや保険の仲介を行うことは意義がある。

 企業内ブローカーに転換することで、上記の二律背反が解消する。企業が企業内ブローカーに指名状(Broker of Record)を与え、企業グループのために活動するということを明確にして保険契約の仲介を行えば、立場は明確となる。そして、報酬も保険会社ではなく、契約者からも得ることができるようにすべきである。契約当事者の片方の立場で業務を行うのであれば、その者から報酬を受け取るのが自然である。但し、全ての保険契約で個々の契約者から保険料とは別に報酬を受け取ることは煩雑で実務的ではないので、海外での実態と同様、ブローカーが保険会社から報酬を受け取る方法と併存させることがよい。また、契約者がブローカーと合意した報酬を支払うことになれば、実質的な保険料割引に繋がりかねないとして制限されている特定契約の問題も解消できる。
更には、他の代理店との協業(分担)も許容してよいのではないか。保険会社からは独立した立場である以上、保険募集に関する賠償責任は免除されるべきものではなく、金額はともかく、保証金供託や賠償責任保険の手配は必要であるが、それ以外の制度は、代理店と同様な制度として問題ないと考える。海外では、代理店とブローカーに対する監督規制を分けていない国や地域も存在する。ブローカーが代理店と同様に保険契約取扱いに関する機能を発揮するためには、現行の仲立人制度の変更が不可欠である。

 企業内ブローカーに関し、考慮すべき事項として従業員等を対象とした職域契約がある。職域契約をブローカーとして取扱い、契約者から報酬を受け取ることは現実的ではない。その解決策としては、職域契約は代理店として取り扱う方法があるのではないか。すなわち、仲立人と代理店の兼営を認めることである。海外では兼営が認められている国もあり、どちらの立場で契約を取り扱うのかを契約者および保険会社に対して事前に明示すれば、兼営の弊害もない。現在の企業内代理店では、企業の契約(管財契約)と職域契約の担当(部署)を分けているところも多く、可能な解決策であると考える。
保険仲介業の制度や規制は、代理店と仲立人で区分するのではなく、オーダーメイドの保険設計が求められる大企業マーケットと、「情報の非対称性」が一定存在し、解り易い定型的商品を適切に提供すべき個人・中小企業マーケットとで区分することが、ニーズや実態に沿うのではないだろうか。

(トムソンネットSBP:ペンネーム 柳 英夫)