「主張」第2回「踏んだり蹴ったり」の代理店出向(2024/10)

昨年来のBM事件等で問題になった損保会社社員の代理店出向について、現在は動機不純な自社への利益誘導策、利益相反、短絡的な収保拡大策という事態に陥っている。
さらに出向社員による顧客情報等の漏洩という由々しき事態にもなって、兼業乗合代理店への出向廃止報道も出ている。
このような状況を踏まえ、ここでは、損保会社社員の代理店出向の変遷と今後について考えてみたい。

1.1996年の業法改正前の代理店出向

 1996年の保険業法改正前は、概ね、以下の基準であった。
(1)原則ノーリターン(出向社員の損保会社復帰なし)
(2)出向社員の給与は原則代理店負担(50%以上の負担が基本、社会保険料は損保会社負担)
そして、出向社員は出向元と一定の隔壁を持ちながら代理店業務に従事していた。
これとは別に、平時は代理店の自立化と資質向上を図って「社員代行」や「二重構造」の排除を意識しながら、代理店の募集人等に急病や不慮の事故等の緊急事態が発生した場合、代理店業務に支障を来す事態を回避するために損保会社の社員による「代理店業務援助」ができる旨の規定を業界で持っていて、これを募集制度部門が所管していた(旧『現行規定集』:廃棄済)。

2.1996年以降の代理店出向

 保険業法改正後は、多くの分野で規制緩和・自由化が進展したが、代理店出向も柔軟な対応をするようになっていった。
この頃、ノーリターンでは出向先の代理店と折り合いが悪かった場合に社員が復帰できずに困ったことになるとして、一定の「お見合い期間(例えば1年…)」は在籍出向とする方式も採用された。
給与負担も、保険会社の社員の給与水準が高いために地場の代理店では負担できないという事情が考慮されて、負担割合も柔軟に対応されるようになった。
このあたりまでは許容範囲だったかも知れないが、営推部門の影響力が一層強くなって自社への収保拡大策に直結させるようになり、さらに多方面の過度な便宜供与も絡んで箍〔タガ〕が外れ、現在に至っている。

3.今後の代理店出向

 9月19日には損保協会から「出向者派遣ガイドライン」がリリースされたが、今般の事案を受けて「営業目的の代理店出向禁止」という指針となった。
ガイドラインにある「過度な出向」(言葉は意味不明に思われるが…)、「利益相反の問題」から、抜け駆けが発生しないよう万全を期すべきである。
ガイドラインには、「出向にかかる統括部門が判断する」との記載があるが、現在は営推部門主導で決定しているものを、例えば、人事部門と共に募集制度部門が統括部門となって判断するような仕組みにすることも検討に値すると考える。
また、今後の代理店出向では、独禁法遵守と非競争領域限定を前提として、(1) 転居転勤ができない事情のある損保会社社員が地元の代理店に寄与したい場合、(2) 代理店に緊急事態が発生して損保会社社員の出向による支援を必要としている場合、などは、検討の余地があるように思う。

 最後に、過去の不祥事件や行政処分事案もそうであるが、損保各社はいつも「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、何度も痛い目に遭っているので、今度こそ肝に銘じる必要がある。
コンプライアンスは年々進化・高度化してチェックの網目が細かくなってくるから、将来、新たな不祥事案(コンダクトリスクを含む)が発生しそうになった場合、未然防止や傷が浅いうちに自浄作用が働いて対処できるような態勢を構築しておくことが求められる。
(森岡 伸彦:トムソンネットSBP)