損害保険料率算出機構は2024年6月28日に、自動車保険参考純率を全体で5.7%引上げることを発表した。理由として主に車両価格および物価の上昇による修理費の上昇を挙げている。
自動車保険では、2024年1月損保各社は値上げを行い、さらに、大手4社は2025年1月に再び料率を引き上げるとしている。
それでは、自動車保険の保険金支払い状況はどうなっているのだろうか。
以下、対人賠償責任保険は対人、対物賠償責任保険は対物、車両保険は車両と略す。
自動車保険全体で見ると2022年度第二四半期あたりから保険金が急増しており、2024年第一四半期現在もこの騰勢は継続している。一方、「自動車保険の概況」によれば、2022年度では2015年度対比で支払い件数は対人が約34%、対物が約20%、車両が約3%減少している。保険金では対人は22%、対物は約4%減少しているものの車両では24%近く増加している。なお、2022年度は対前年比、対物で8.4%増加し、車両では21.4%の大幅増加になっており、この数年の自動車保険の保険金の急増の主要な原因が車両の保険金の増加にあることは明らかだが、この増加の原因を物価の上昇だけで説明することは難しい。
車両の支払内訳では、車両単独事故による2022年度の保険金の支払いが前年度比ほぼ900億円増加し、自動車保険全体で見ても最も大きな伸びを示している。この車両単独の事故類型には自然災害による損害が含まれ、2018,19年度は巨大な損害が発生したが、2021,22年には大きな自然災害は発生していないため、なぜこの事故形態による損害が急増しているのかは不明である。
車両は2018年度以降対物を超えて自動車保険の中では最も支払額の大きな保険種目となっている。
つまり、自動車保険を詳細に見れば、保険金の支払いが交通事故の減少と並行している対人、支払い件数は減少しているものの物価上昇等の影響により保険金の減少が相殺されている対物、支払い件数はほぼ横ばいであるが保険金が急増している車両に分かれる。
交通事故はASV等の普及でこの10年ほど急激に減少をしている。2023年にはコロナ自粛が解除になり、交通事故は若干増加したものの、2015年比43%近い減少となっている。さらに、警察庁の統計では2024年は再び交通事故の減少傾向が明らかになっている。このため自動車保険に対して保険料の引下げを期待する声も大きく、料率改定に当たっては従来に増してより詳細な情報提供が求められる。特に保険種目毎の料率の変更内訳の開示は消費者の理解を得る上で重要である。
自動車保険料率算定会は1996年に「自動車保険料率のあらまし」を作成し、その中で、料率改定年毎の料率の変更内容を対人、対物、搭乗者、車両別に示している。例えば、昭和60年9月1日改定の内訳は対人-5.0%、対物+8.1%、車両-4.8%である。
このような資料を公表することで、消費者の保険料改定に対する理解・納得感が高まるとともに、事故の発生状況と料率との関連が明らかになり、保険契約者の交通安全への意識をさらに高めることに資するものと考える。
(トムソンネットSBP:大島道雄)