「主張」第7回「メインフレームと生保基幹系システム、本当の課題」

 生保各社は長期的に基幹系システムを担当する人材の確保と維持育成に注力すべきである。
メインフレーム(以降、「MF」と略す)を継続利用していることが真の問題ではなく、長年の蓄積により複雑化してしまった事務とシステムの維持コスト上昇にどう対処してゆくかが重要である。

 国内の大手生保は1990年から2000年初頭にかけてMF上に構築した基幹系システムを使い続けており、毎年多額の費用をシステム基盤およびアプリケーションの維持開発に投じ続けている。
 2023年には富士通社がMFを提供中止するという報道もあり、MFを継続使用しているリスクと対策への関心が高まった。
小職が担当した当社Webセミナーでは過去最多の参加者数を記録した。 (2024年12月「生保基幹システムの課題と解決の方向性ーなぜメインフレームを使い続けるのかー」〔現在、個別申込みのオンデマンドで視聴可能〕)

 規模の経済は生命保険業における収益の要の一つである。新たなニーズに応える新商品を開発する際に可能な限り既存の事務やシステムを利用する「既存流用と差分開発」を行うことで、規模の経済を享受してきた。しかし、この長年にわたる開発の蓄積がシステム・ビジネスの複雑化により生産性を低下させ維持保守コストの増大 (メタボ化) を招いてしまった。
これはある面、契約期間が超長期間にわたるため、一度発売した商品のビジネスロジックを使い続け削除することなく蓄積し続ける生命保険業の宿命である。生保に比べ短期の商品が多く、新システムへの片寄せ移行が行いやすい金融他業態とは異なるこの特徴が問題を生んでいる。

 世の中には生命保険業以外にもこのような業務が存在する。米国IBM社製のMFは全世界ベースでの利用状況を見ると今後数十年は調達可能であろう。しかし、基盤製品が提供され続けたとしても、その上で稼働するアプリケーションを正しく維持・保守する責務はユーザー企業にあり油断してはならない。

 海外に目を向けるとアジアでも生保でMFを使用していない国がある。また国内でもMF以外にプラットフォームを移行(リホスト)することに成功した事例も多い。単純なMFから他技術への基盤移行は実現可能であるが、それではメタボ化した事務・システムの問題は解決しない。
問題解決のための要員を、自社内で優秀な人材を選抜し、時間とコストをかけてでも育成すべきである。業務・アプリを含めた全体を把握し、今後の長期ビジネスの方向性を理解した上で、ビジネス側や経営陣との対話を通じて適切にシステムを対応させ続けられる人材が求められている。現行システム開発時の関係者がほとんどリタイアした現時点において、世代をまたいだスキル育成と継承は喫緊の課題となっている。

 この問題の解決に特効薬はない。しかし、この状況を放置すると、恐竜が哺乳類に取って代わられたように、いつの日か環境の変化に素早く柔軟に対応できる他業態からの参入や最新技術を武器としたスタートアップなどの挑戦者に駆逐されてしまいかねないことを認識すべきである。
関係者の皆さんはこの問題から目をそらす事なくより良い方策を探り続けてほしい。
(東野正嗣:トムソンネットSBP)