「主張」第3回「損保業界問題の真因」

 損保業界で、大手中古車販売店での保険金不正請求、企業保険での保険料調整行為など不適切事案が生じている。損保協会長は、これらの問題の真因として以下の4点を挙げて、再発防止と信頼回復に取り組むとしている。
① 法令に対する認識不足と教育の不徹底
② 業界特有の他社との接点や情報共有に伴うリスク感覚の鈍化
③ 業務実態や内在するリスクに対する不十分な管理態勢
④ 営業数字やマーケットシェアに偏重した営業活動
 

 筆者はこれらとは別に5つ目の真因があると考える。それは「保険本来の価値で損保会社を選ばない保険契約者」である。
 自動車ディーラーなど主に個人を相手にする兼業乗合代理店が損保会社に対して優位に立てるのは、契約者が自ら損保会社の商品を比較検討することなく、代理店の勧める損保会社の保険に加入するからである。結果、兼業乗合代理店は、補償内容や事故対応サービスといった保険本来の価値ではなく、車両紹介や入庫紹介などの便宜供与をしてくれる損保会社へ契約を振り向けることができる。

 一方、企業契約者は、保険本来の価値ではなく、自社の株式をいかに多く保有し自社商品をたくさん購入してくれるかで損保会社を起用する。さらに、複数の損保会社と取引することで、株式保有や本業支援を競わせる。その際、共同保険という仕組みは実に使い勝手がよい。補償と保険料は競争入札で一番良い条件を採用し、保険の引受割合(シェア)は持株や本業支援の貢献度に応じて割り振る。競争入札は一番札を入れた業者が契約を総取りするのが一般的だが、損保業界ではそうではない。二番札以下も一番札と同じ補償と保険料で共同保険に参加する。

 なぜ、契約者は保険本来の価値で損保会社を選ばないのか。ひとつには保険が複雑で難解なことが挙げられる。それとは別に、戦後50年間続いた全社同一商品・同一料率の算定会制度(「護送船団方式」ともいう)で染み付いた「保険はどこでも同じ、比較検討は意味がない」という意識が、自由化から20年以上たった今も続いているからである。

 企業が直面するリスクを認識、評価し、リスクの抑制や金銭的備えを通じて様々なリスクを合理的・効果的に処理する一連のプロセスをリスクマネジメントというが、日本ではリスクマネジメントに基づき最適な保険を手配している企業は一部に限られる。メインバンク、株の持合い、系列取引、国の補助金に頼り、内部留保を厚く積むばかりで、成長分野に投資せずリスクを取らない昭和のJTC(Japanese Traditional Company)にリスクマネジメントは不要だったのだろう。

 しかし、変化の兆しはある。グローバル展開している大企業を中心に、自然災害、サプライチェーン、サイバーなど高まるリスクに対応して、高度な専門知識を持つリスクマネージャーを配置し、主体的にリスクマネジメントに取り組み始めている。政策保有株式の解消も具体化しつつある。契約者から「保険本来の提供価値・リスクソリューション力」で評価される損保業界に生まれ変わる環境は整いつつある。
(トムソンネットSBP石井伸夫)